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かりん御殿

かりん御殿

昭和16年「週刊朝日」平出海軍大佐に聴く

実は、先月、東京・上海を休暇で訪れた際、
毎月第一日曜日に原宿の東郷神社で開かれる「能美の市」にて
感じの良い店主さんから暑い日で家族連れであったので
そそくさと3冊の古雑誌を購入しました。
週刊朝日・婦人世界

裏表紙・広告

(もっと買えば良かった...と後悔
東京近郊にお住まいで
ご興味のある方は、是非、どうぞ。)

その中の一冊
「週刊朝日」の昭和16年12月28日号から
巻頭記事を(旧字旧かな改行を改め)
ご紹介します。
======

【ハワイマレー沖両大海戦を讃ふ】
(平出大佐に聴く)
巻頭記事
12月12日
海軍省にて

大本営海軍報道部
海軍大佐
平出英夫氏

本社出版局長
鈴木文四郎


【鈴木】
今回の対米英海戦は世界の海戦史に最も大きく特記さるべき
帝国海軍の大快捷(せき)であったと存じます。
国民の帝国海軍に対する感謝感激、
これはもう言葉に尽せないものがあり、
また海外における反響というものは、
今まで知れているだけでも非常なもので、
むしろ世界を驚倒せしめた感じがございます。
ここに海軍のスポークスマンであられる
平出大佐殿に対しまして
この際あらためて”おめでとう”と申し上げさせて
いただきたいと存じます。
【平出】
あり難うございます。
【鈴木】
今度のハワイ海戦とマニラ沖の海戦に
つきましては、国民のみんなが平出大佐殿の口から
纏ったいろいろの御説明やら御感想を
伺いたいと思っているのに相違ないのでございますが、
殊にハワイ攻撃というものは、日本国民をも含めて
世界人類すべての意表に出た大奇襲であろうと存じます。
私どもの社の南米ブエノスアイレス特派員
細川君と国際電話をした時に、アメリカでは、
日本がアメリカの正面の玄関からやって来た、
これは全然予期してなかったことで、しかも
三千マイルの遠隔の地から日本の海軍が
奇襲したことは、まったく日本海軍の自信と、
卓抜した計画に出たものだといっているという
細川君の話でございましたが、われわれも、
よくあれほどの大作戦ができたと思うのであります。
これにつきましてどうしてああいう大胆不敵な作戦を、
しかも水も漏らさぬあざやかさでできたか
まづ伺いたい物だと思います。
【平出】
御尤もな御質問でございますが
まだ作戦が続いているのでございまして、
あれを決行した艦隊たちは、まだ
あれに満足しないで、それ以上の作戦に
すでに取りかかっております。
随って、どんな舞台がどんなふうに行動して
どんなふうにやったかということは、
今後の作戦に響いて来ますので
私は申し上げる自由をもっておりません。
ただ、私が申し上げ得ることは
なぜああいうことが成功したかという原因を尋ねますと、
アメリカの艦隊とは性格が違う、
これが何よりの原因なのです。
それをもう少し細かくいえば、
アメリカ政府首脳部は艦隊というものを
政略の道具に使った、巨きな艦を数多く揃えて
威嚇すれば血を流さずに日本を圧伏し得る、
こう考えたところからスタートしていると考えるのです。
これだけ持っているぞ到底日本は勝てまい...
これで日本を制圧することができると考えたんです。
日本という民族が、圧迫を加えられたり
嚇かされたりすればするほど、
強く反発するものだということを、
全然認識していなかった。
私は度々これを発表したのです。
しかし彼等はそれを単に私が強がりをいっていると考えたに違いない。
アメリカの新聞なども、これを単に
平出なる者の強がりと書いておりました。
しかし私はほんとうのことをいっておったのです。
日本の艦隊というものは政略なんかない、
ただ一途に敵の艦隊をぶち破って
国防を全うしようということだけを
目標にして来たのですから、
その性格が非常に違う。
根本的な違いです。
これが非常に大きな原因の一つだと私は思います。
もう一つは、国民性にもよると思うのですが
訓練が違う。
アメリカの海軍も訓練は無論本気でやるのでしょうが、
その程度が日本と違っている。
これはアメリカ艦隊に限らず、
どこの国でも大抵そうなのですが、
月曜に出勤して金曜には帰って、
土曜と日曜は休む、そうして夜は訓練をしない。
ところが、日本の海軍には土曜も日曜もない。
いわゆる月月火水木金金という曜日でやっているし、
夜になれば、さあ、これからが猛特訓だというわけで、
とても訓練の状況が違うのです。
それから精神が違う。
アメリカは五という比率をもっていて、
必ず日本をやっつけられるものと考えていた。
そこに油断があります。
ところが日本は三に抑えつけられてしまった、
しかし敗けてはいられない、
彼等が到底勝てまいと思うその比率でどうやって勝つか、
どうして国防を全うするか、そればかり
考えているんですから肝が違います。
そこに彼等の間違いがあった。
彼等は加え算をやっているのです。
三足す二は五と考えている。
ところが、日本のは掛け算です。
三掛ける五、或いは、三掛ける十という掛け算をしたのです。
それを向こうは知らなかった。
掛け算とは何かというと、日本は
精神力或いは訓練というような
目に見えないもので掛け算をした!
これは条約でもどうにもならなかった。
数は条約によって制限し得たけれども、
精神力とか訓練による力は制限できなかった。
これがワシントン条約の非常な成果であり、
失敗であったのです。
ワシントン条約の出来た時から日本の艦隊が
今日の勝ち戦の原因をつくった、こう考えます。

【鈴木】
もう一つは東郷元帥以来の日本の海軍の伝統が
赫々として活きておったということですね。
【平出】
そうです。私が非常に面白いと思うことは、
アメリカもたくさんの戦争をした国です。
私の聞いたところによると、建国以来二百七十年の間に
百十四回くらいの戦争をしている。
そうしてアメリカ海軍は敗けたことがない。
日本海軍はその歴史は新しいけれども、
かって敗けたことがない、戦う度に必ず勝っている。
この勝つという信念、負けたことがないという信念、
これは非常に大きいですね。
ところが、この必勝という信念は、
日本も持っておったけれども、アメリカも
当然持っておったはずなのです。
今まで敗けたことがないのですからね。
しかし精神の土台が違っていたんです。
伝統精神の本当の土台が違っていた。
彼等はいつでも弱者を虐げ、弱い者いじめをして勝っておった。
これは敗けたことがないのが当然ですね。
ところが、日本は自分よりウンと強い者を相手にして勝っておった。
故に勝ったということは同じなんですけれども、
内容が非常に違うのですよ。
【鈴木】
今度のアメリカの大齟齬(そご)は、
われわれ素人からみますと、まさか
ハワイまでこんなに早く来やしまいという油断が
原因したのじゃないかと思いますが...。

天佑の暴風雨!

【平出】
それにもう一つ状況が加わります。
天佑だと思うのですが、ちょうど奇襲をやる数日前から
相当ひどい暴風雨でした。
実はかなり前から太平洋の哨戒がはじまったので
ハワイでも哨戒していたんです。
夜でも昼でも哨戒機が飛んでおったわけですね。
ところが、あまりにひどい暴風雨であったので
哨戒をやらなかった。
その暴風雨のやんだ日が八日なんです。
全然哨戒をやっておりません。
八日も、やんだとはいっても相当な風力だったようです。
それでハワイから聞えてくる話では、山にスレスレに
殆ど這うように低空飛行をやった、そのために
音は聞えても飛行機は見えなかった。
そのうちに見えたと思ったら、その時は
もう自分たちのま上に来られていた、
防空放火が働きはじめたのは、すでに飛行機の爆撃が
はじまってからだった、そういうことらしいです。
【鈴木】
低空飛行をしたというのは、やはり作戦ですか。
【平出】
これは非常にいいんです。
這うようにして行くと見えないんですよ。
【鈴木】
時刻は未明だったんですか。
【平出】
ちょうど日出と同時ぐらいだったでしょうね。
彼等は土曜日の晩から日曜の朝にかけてが
最も楽しい時なんで温かい寝床を楽しんでおったことと思うのです。
彼らは日曜の朝なんて日出ごろに起きやしません。
それに艦艇の相当上の方の幹部は、土曜日から
よそへ出てしまって、そこにはおらないんです。
だから、どの点からいっても大きな油断があった。
今いわれるように、まさかハワイまでは来ないだろうというのが、
いちばん大きな油断、それから日曜日の朝であるが故に
グッスリ寝込んでおったという油断、
暴風雨のために哨戒していなかったという油断、
その他あの辺の市民は、まさか来ないだろうというので
防空演習なんかやったことがないらしい、そういう油断...。
しかし三千何百マイルという距離があるんですから、
それを往復して爆撃するとは考えられないのも尤もなんです。
ところが、それが不思議にもやって来たんです。
はじめは日本軍が来たとは信じなかったらしいですね。

寝ていた連中が寝巻きのままで起きて

来て、昼過ぎまで寝巻きのままで狼狽していたという有様です。
これが勝利を来した海戦の状況ですね。

【鈴木】
向こうの哨戒(しょうかい)は主に飛行機でやっていたのですか。
【平出】
飛行機です。
【鈴木】
数百マイルにわたってやったのでしょうね。
【平出】
相当広い範囲ですね。
【鈴木】
しかし、こちらとしてはそういう天佑(てんゆう)がなくて、
もし発見されたらどうするという二段階への作戦があったわけでしょう。
【平出】
それは勿論ですけれでも、それを今申し上げる自由を持たないわけです。
【鈴木】
どうして発見されなかったのかと、私は疑問に思っていました。
【平出】
要するに、発見されれば出てきたやつをやっつけるという
力を持っておったわけです。
【鈴木】
向うの艦隊は真珠湾の中に殆どみんな安眠しておったのですね。
【平出】
そうです。一部分は訓練しておったようですけれども。
【鈴木】
当時ハワイには戦艦九隻、甲級巡洋艦五隻、
乙級巡洋艦六隻、駆逐艦十五隻、航空母艦二隻、潜水艦十隻いて、そのうち
戦艦二隻が沈没(十三日にアリゾナの撃沈も確認されたので、
撃沈主力艦は合計三隻、また大型駆逐艦一隻の撃沈も確認)
四隻が大破、航空母艦一隻が沈没、
約二十四万トンの損失ということですね。
【平出】
まず二十五万トンです。
【鈴木】
そうするとアメリカ海軍の総数が百四十一万トン...。
【平出】
百四十一万トンという数字は、ずいぶん雑船が入っておりましょう。
【鈴木】
雑船を入れて百四十一万とすると、その
二十パーセント、雑船を入れないと
もっと多くの勢力を失わせたわけですね。
ところでその時間はどの位だったでしょう。
【平出】
三時間くらいです。
私共のほうも正確なニュースを知っておりませんが、
約三時間でそれだけやったようです。
【鈴木】
その他の損害は?
【平出】
まだハッキリわかりませんが、飛行機の損害が
相当なものだと思います。
艦隊と飛行機と軍港、それだけやっつけたんですから。
そうして、向うで発表している死者何千人というのは
殆ど全部が軍人関係ばかりです。
市民はホンの数名らしいです。
これは如何に攻撃法が正確であったか、
盲弾なんか一つも撃っていないという証拠です。
【鈴木】
一つの戦艦には、やはり千人くらい乗っておりますか。
【平出】
乗っております。千人以上ですね。
三万トンの戦艦なんか、どうしたって千人を超えます。
【鈴木】
非戦闘部員を傷つけずに戦闘員だけをやったというところが、
実にいいですナ。
【平出】
それが私共も非常に得意になるところでして、
先方でも市民の損害は軽微なりといっておりますから
確かだろうと思います。

==============

そういえば「パール・ハーバー」という
ハリウッド映画が数年前に公開されていましたナ(笑)。
(このカタカナの「ナ」これから頻出しますが
 良い味出してるので、現代的表記に改めませんでした。)
前回も書きましたが、真珠湾攻撃が奇襲であった事に
アメリカは「卑怯だ(フェアではない)」と怒った、という
印象を私は抱いていたのですが、
開戦布告が翻訳や時差で遅れた云々(か否か)は、
ひとまず置き、(当時の?)日本的感覚では
「奇襲」は卑怯でも何でもない立派な作戦であったはずです。
戦闘人員と一般民の区別の無い「Total War」から
捕虜待遇に関する条約など規則(反則)で規制する
スポーツ的ゲーム的な感覚の戦争へと
いわゆる欧米諸国が「お仲間的寄り合い」で
変化させている所へ、昔ながらの「いくさ」感覚を持った日本が
「奇襲」という日本から見れば「戦略」
米国から見れば「反則」を行ったという解釈でしょうか。
よって、もともと自分たちが主張していた「規則」を
自ら破り、究極の「大昔的戦争=Total War」に突入、
自国本土の自国民は被害に陥らない状況で、
敵国は、どっぷりと戦火に浸からせて
空襲で敵国一般市民を焼き殺し、
最後は、攻撃機も絶対撃ち落とされない高みから
原爆を落としたわけなのか??...と
感慨深いものがあります。

============

【鈴木】
それから十一日の新聞に出ておりましたけれども
サンフランシスコ沖で大きな貨物船が日本の潜水艦に
沈められたというのは、日本の海軍当局として
おかしいナ、あっちの方を思っていた所が、
アメリカの潜水艦が自分の国の船をやったんだという
実に落語みたいな話がありますね。
【平出】
ほんとうに落語みたいですよ。
しかし南米からのニュースがそれを伝えているんです。
【鈴木】
あの狼狽ぶりはほんとうだろうと思えますのは
「ホワイトハウスや議会の中までも」
砂嚢やバリケードを造っていることから見ても
わかると思いますナ。
【平出】
ルーズヴェルトが動く場合に身辺を警戒してるのが一個中隊だそうです。
自由の国、共和国の米国がですよ。
これは何を意味するか非常に滑稽な事実だと思うんです。
【鈴木】
アメリカでは早速両院の海軍委員会を開いて、
すぐに損害の補充準備にとりかかったという電報がございますが
これは当然のことでしょうね。
【平出】
当然でしょう。しかしそれが出来上がるのは
恐らく三年以上も後でしょう。

夢と消ゆ「渡洋作戦」

【鈴木】
そうでしょうナ。
とにかくアメリカが日本に向って昔から、
マハン以来豪語しておったところの
渡洋作戦というものは、夢になったというわけですか。
【平出】
夢ですね。絶対に出来ますまい。
少なくとも三年後に補充できるまでは駄目でしょう。
しかし三年といってもその間にまた何隻やられるか知れませんからね、
或いは永久に出来ないかも知れません。
渡洋作戦をやるには、敵の戦力の四割ないし五割増し
もっと欲をいえば六割増しというのですが、
今度あれだけやられちまったんですから、日本と対等というより、
むしろ向うの方が下りやしませんか。
ですから、渡洋作戦なんて絶対にできません。
【鈴木】
殊にグワムを奪られ...。
【平出】
そうなんです。根拠地がないんです。
フィリッピンあり、グワムあり、ジョンストンあり、
ミッドウェーありというならば、来る見込みもあったんでしょう。
その根拠地なしには、六割以上の勢力を持ってしても来られやしません。
【鈴木】
グワムやミッドウェー、ああいった一連の島嶼ですナ。
あれを日本に奪られることの彼等の軍事的損失は、
どういうふうに解釈したらいいでしょうか。
【平出】
あれは
「渡洋作戦の途中の不沈の航空母艦」
というわけですからね。
【鈴木】
その中でもグワムが一番大きな根拠地ですか。
【平出】
そうなんです。島も相当大きいですし、相当に強力です。
しかし艦隊をそこで修理するなんていう能力はありません。
主として補給ですね。
それからミッドウェー、ウェーキ、ジョンストンなんていう島が
航空基地として出来上がったのは、一ヶ月か二ヶ月前ですよ。
それからグワムは、予算は通ったが、なかなか実施できないうちに
攻略が済んだんですから、これは予算が儲かったと
喜んでるだろうと思うんです。

(2)に続く

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「予算が儲かったと喜んでる」(笑)
いつの時代に於いても、資金ぐりは基本の基!
戦国時代の合戦でも、金勘定は、しっかりしていたはず。
しかし、アメリカの国力(経済力/資源)に対する
海軍大佐の非常に楽観的な観測は、意外に感じたのですが
わざと、公開インタビューでは、こう言っていたのでしょうか?
ミッドウェーなど具体的な地名が出て来ると、
後の歴史を知っている立場では心が痛みます。

ところで、貨物船の誤沈。
イラク戦争時も、さんざんFriendly Fireをかまして
「敵軍ではなく味方の米軍に気をつけろ」と
英国で大顰蹙をかっていたアメリカですが当時も...
確認技術?が、あまいんでしょうか?
大雑把すぎる???
アメリカは何故戦争に勝てるか?
やはり、国土、経済力、資源etc???
その点、その面で弱い英国は、本当の意味で
結構、戦争が強いんじゃないでしょうか?!!
...いや、基本的に、戦争は、絶対、避けたいんですが
どうしても、やらなきゃならないなら、勝ってくれとも思う隠居です。
このインタビューでも、後、
戦うか否かの政治的見地についての興味深い意見が出て来てます。

(2)に続く


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